中村 不折 なかむら ふせつ
   

本来無一物。
亦無塵可払。
若能了達此、
不用坐兀兀。
本来、無一物。
また、塵の払うべきもの無し。
もしよくここに了達すれば、
用いず坐して兀兀たるを。    (拾得詩)
130.0p×37.0p

「本来無一物」
中国禅宗の第六祖、慧能禅師(638〜713)の言葉。事物はすべて本来空(くう)であるから、執着すべきものは何一つないということ。

慧能が師の第五祖弘忍禅師から法を継ぐ契機となった詩偈に由来しており、禅の古典『六祖壇経』には次のようにある。
当時、 弘忍禅師のもとには七百人余の弟子達が厳しい修行の日々を送っていた。
ある日、師は後継者を決定するため「悟りの境地を示した詩偈を作れ」と弟子達に命じた。
学徳に優れ信望厚く、彼こそが六祖に相応しいと噂の神秀上座(じんしゅうじょうざ)は次のような詩偈を作った。
『身はこれ菩提樹、心は明鏡台の如し、時々に勤めて払拭して、塵埃をして惹かしむること莫れ』
この詩偈を聞いた弟子たち、誰もが賞賛した。
ただ一人それに背く者がいた。寺男として米つき部屋で黙々と働いていた慧能。
「よくできているが完全ではない。私はこう思う。」と言い、無学文盲にて、近くの童子の筆の助けを借り、『菩提、本(も)と樹無し、明鏡も亦、台に非づ本来無一物 何れの処にか塵埃を惹(ひ)かん』との詩偈。
神秀は、身は菩提(悟り)を宿す樹、心を一転の曇りなき鏡にたとえて煩悩の塵や埃を常に払い清めるが如く修行に専念するのが禅の道であると説いた。
しかし、慧能は「菩提はもとより樹でなく、鏡もまた鏡でない。本来、無一物であるのに、どこに塵がつくところがあろう」と 頓悟の境地を示した。
換言すれば、悟りや煩悩の概念に囚われた世界をきっぱりと否定し、「悟り」「煩悩」ばかりか「一物(いちもつ)も無い」と言う考え方さえ存在しない、一切の囚われを否定しつくした世界こそ、禅である。と説いた。結局慧能が第六祖に選ばれた。神秀は北宗禅の祖となったが、慧能は南海に帰り、民間にあって説法し多くの信者を集めた。慧能の禅は、南宗禅と呼ばれ、臨済宗や曹洞宗など五家七宗禅は皆南宗禅から由来している。

慶応2年7月10日(新暦 1866年8月19日)生〜昭和18年(1943年)6月6日歿
 本名はニ太郎。正五位。帝国美術院会員・芸術院会員。
 森鴎外や夏目漱石等の作家とも親しく、『吾輩は猫である』『若菜集』『野菊の墓』などの挿絵や題字を書いた。また、中国の書の収集家としても知られ顔真卿の現存する唯一の真蹟といわれる「自書告身帖」などを収集し、1936年に台東区根岸の旧宅跡に書道博物館(現在は区立)を開館した。なお、不折の筆跡は現在でも、宮坂醸造の清酒「真澄」や新宿中村屋などの商品表記に用いられている。

(書道博物館のリーフレットより)
 中村不折(1866−1943)は、明治・大正・昭和にわたり、洋画界と書道界の両分野において大きな足跡を残した人物である。
 画家を志した不折は、小山正太郎(1857−1916)の薫陶を受けた後、フランスのアカデミー・ジュリアンに入学し、ジャン=ポール・ローランス(1838−1921)の指導のもと、約4年間かけて人物画を徹底して学び、緻密な構図をベースに躍動的で力強い写実主義を確立した。
 帰国後は、自らの作品を精力的に制作し展覧会に出品する一方で、太平洋画会研究所において後進の育成にあたり、後にその校長を務めるなど、教育者としても大いに貢献した。
 ところで、洋画家として出発した不折が書道研究に傾倒した最大の契機は、日清戦争従軍記者として中国へ赴いたことにある。
 この機会に約半年をかけて中国、朝鮮を巡遊し、後の彼の書に少なからぬ影響を与えた碑拓などをはじめ、漢字成立の解明に寄与しうる考古資料を目にし、それらを日本へ持ち帰ることを得たのである。
 書においては、こうした資料から多くを学び、なかでも北派の書を根底とした、不折独自の大胆で斬新な書風を展開したことで知られている。
中村不折記念室では、不折がフランス留学中に勉強したデッサンをはじめ、晩年の油彩画や、水彩画、南画、書など不折自身の作品と、不折の手がけた文学作品の挿絵、装丁の類を展示している。
 また、不折と交流のあった正岡子規や夏目漱石など、文豪たちの書簡も同時に展示している。

  「不折書」の下に、白文の「中村ニ印」、朱文の「不折」の落款印が押されている。

推奨サイト
http://burari2161.fc2web.com/nakamurafusetu.htm
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E6%9D%91%E4%B8%8D%E6%8A%98
http://kotobank.jp/word/%E4%B8%AD%E6%9D%91%E4%B8%8D%E6%8A%98
http://www.shibunkaku.co.jp/biography/search_biography_number.php?number=20116
http://www.city.ina.nagano.jp/view.rbz?nd=736&of=1&ik=1&pnp=47&pnp=379&pnp=734&pnp=736&cd=1280
http://www1.tmtv.ne.jp/~hsh/20seiki16.htm
http://alpaca2008.com/zengo/index.php?%CB%DC%CD%E8%CC%B5%B0%EC%CA%AA
http://i.prodr.com/zen/z-enou.html


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